心に沁みた詩「最上のわざ」|樹木希林が映画『ツナグ』で朗読した老いと祈りの言葉

06/01/2026

愛してやまない、母国日本の名女優、樹木希林さん

2012年に公開された邦画「ツナグ」。この作品の中で、樹木希林さん扮する渋谷アイ子が、いつも口癖のように胸に抱いている詩があります。それが「最上のわざ」です。
物語のラスト、エンドロールにかかる最後のタイトルの箇所で、この詩が希林さんご自身の声で、静かに朗読されます。

あの独特で滋味のあるお声で読み上げられる一篇は、僕のキリスト者としての魂を揺さぶり、この作品の余韻を決定づけるほどのパワーを持っていました。

実はこの詩、辻村深月さんの原作小説には登場しません。樹木希林さんご自身が「この詩を入れてほしい」と監督に申し入れ、映画に取り入れられたものだそうです。(参照:クリスチャンプレス)

調べてみると、「最上のわざ」は、上智大学の第2代学長も務めたドイツ人宣教師、ヘルマン・ホイヴェルス神父(1890–1977)の随想選書「人生の秋に」に収められた一篇でした。

もっとも、その詩はホイヴェルス神父ご自身が書いたものではないそうです。1923年に来日し、わずか一週間後に関東大震災に遭いながらも日本に留まり、生涯の大半をこの国に捧げた神父。その人が1967年、44年ぶりに故郷ドイツの土を踏んだとき、友人から贈られた詩——それが「最上のわざ」でした。異国で半生を捧げた老宣教師の手に、故郷の友からそっと託された一篇。そう知ると、この詩の一語一語が、いっそう深く沁みてきます。(参照:Wikipedia「ヘルマン・ホイヴェルス」)


「最上のわざ」

この世の最上のわざは何?
楽しい心で年をとり、
働きたいけれども休み、
しゃべりたいけれども黙り、
失望しそうなときに希望し、
従順に、平静に、
おのれの十字架をになう。

若者が元気いっぱいで
神の道を歩むのを見ても、ねたまず、
人のために働くよりも、
謙虚に人の世話になり、
弱って、もはや人のために
役だたずとも、
親切で柔和であること。

老いの重荷は神の賜物、古びた心に、
これで最後のみがきをかける。
まことのふるさとへ行くために。

おのれをこの世につなぐ鎖を
少しずつ外ずしていくのは、
真にえらい仕事。
こうして何もできなくなれば、
それを謙虚に承諾するのだ。
神は最後にいちばん
よい仕事を残してくださる。
それは祈りだ。手は何もできない。
けれども最後まで合掌できる。

愛するすべての人のうえに、
神の恵みを求めるために。
すべてをなし終えたら、
臨終の床に神の声をきくだろう。

「来よ、わが友よ、
われなんじを見捨てじ」と。


詩「最上のわざ」は、老いさらばえていく、この陰険なクリスチャン高齢者の「道しるべ」

この詩と、樹木希林さんの朗読に、僕は深く感動を覚え、何度も何度も拝聴し、何度も何度も拝読しました。今ではあたかも般若心経のような立ち位置で、僕の心中にしっかりと植え付けられています。

そして、これから老いさらばえていく、この陰険なクリスチャンのおっさんの生き方の「道しるべ」にしようと、当時、還暦を心待ちにしていた50代後半の自分の心に、深く刻んだ次第です。

天に召された、母国日本の名優・樹木希林さんの平安を、心よりお祈りいたします。

Yoshio