厄年に突然、耳が聴こえなくなった〜突発性難聴の治療体験談
yoshio journal | カリフォルニア・ライフ
厄年に突然、
耳が聴こえなくなった
突発性難聴の治療体験談
Yoshio Maki
69歳は、厄年
69歳というのは、厄年だそうです。
数え年で70歳にあたるこの年は、男女共通の厄年とされ、母国日本では多くの神社仏閣で厄払いが行われるそうです。長寿の節目「古希(こき)」とも重なる年。喜びと祓いが同居する、不思議な歳なのでしょうか。
僕は4月に肺炎球菌による肺炎を患いひと月ほど療養、お陰様で完治・・。主治医から肺炎ワクチン接種を啓蒙され接種完了・・まずはひと安心。そして、その喜びも束の間、先月、突発性難聴を患いました。
僕はキリスト者なので厄年を信じるわけでもありませんでした。しかしこの年に突発性難聴を患い、「なるほど、これが一般に言う『厄』=人生の節目てか!」と、思った次第。
信仰の話ではありません。人生の節目に神様が身体に何かを語りかけてくることがある、そういうことなのでしょうか・・。
突発性難聴、発症
朝目が覚めたら、音がくぐもっている。左耳の聞こえがおかしい。耳鳴りがある。右耳を押さえたら、左耳がまったく聴こえていないことに気づきました。
よくある加齢のせいか、低気圧のせいかと思いました。しかし時間が経っても聴こえが元に戻らないのです。これは絶対におかしいと直感・・。これが僕の突発性難聴の初期症状でした。
ググってみたところ、突発性難聴(Sudden Sensorineural Hearing Loss / SSHL)とは、特に原因が特定できないまま突然片耳の聴力が低下する疾患とありました。
アメリカでは年間約66,000件の新規症例があると報告されていました。原因は内耳の炎症、循環障害、ウイルス感染などが考えられていて、誰でも、突然なりうるようです。
もしこれを知らなかったら、聴力は戻らなかったかもしれません。
ハイドース――プレドニゾロン60mg
ENT(耳鼻咽喉科)での聴力検査(Audiogram)で突発性難聴と診断され、すぐに治療が始まりました。
アメリカでの標準的な治療は、経口ステロイド薬「プレドニゾロン(Prednisone/Prednisolone)」の投与と説明され、ハイドース(high-dose)の60mgからスタートし、13日間かけて段階的に減量していくスケジュールで処方されました。
服用を始めて2日目には改善の兆しを感じ始めてきました。耳鳴り、そして妻の声がボコーダー(ニュースインタビューなどで音声を変えたような)エフェクトがかかって聞こえ、耳の詰まりはそのまま。
でも、めまいやふらつきがなかったのが幸いでした。4日目にはさらに聴力の回復を実感できましたが、しかしそれと同時に、副作用も現れ始めました。
不眠と、ハイパーな日々
治療中に最も辛かったのは、不眠でした。毎晩2〜3時間で目が覚め、そのまま眠れない。時差ボケのような感覚が続きました。
メラトニンを就寝30分前に服用することで多少は改善しましたが、根本的な解決にはなりませんでした。数年前から飲酒習慣をやめ、ソバキュリアンとなり睡眠の質が向上して以来、毎晩6〜7時間はきちんと寝られていたので、なおさら辛かったです。
それ以上に驚いたのが、気分と身体の状態でした。プレドニゾロン(ステロイド)10日間の平均睡眠時間は3時間。それにもかかわらず、疲れをまったく感じない。気分は高揚し、空も飛べそうな気分(大袈裟ですね・・)。エネルギーが異常にある。傍から見れば元気そのものだったかもしれません。
しかしこれは、60mgという高用量ステロイドが神経系を強く興奮させることで作り出された「おお、これが世に言う薬物による人工的なハイ」だったのかと、身をもって体感したのです。
その他にも、血圧の上昇、胃の不快感による食欲不振といった症状がありました。主治医から胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)のオメプラゾールを処方され、毎朝プレドニゾロン服用30分前に飲んだら、胃の不快感がなくなり食欲も出てきました。

完治~聴力検査
治療開始から11日目、ENTでの聴力検査の結果、聴力の回復が確認されました。ENTから「プレドニゾロン(ステロイド)服用をやめても良い」との指示をもらい、ほっとひと安心・・と同時に、「ステロイドの服用をやめた後、どうなるのか」すぐに不安が頭をよぎりました。
- ・急に強い眠気
- ・どっと疲れが出る
- ・気分の高揚感が消え、落ち込む(軽度のうつ状態)
- ・体が重く感じる
毎日3時間足らずの睡眠でハイなスーパーヒーロー的状態が10日以上も続いていたので、その反動の副作用が気になって仕方なかったのですが、落ち込みなどもなく、今日現在、日常生活に支障はありません。
ステロイドが教えてくれたこと
プレドニゾロン(ステロイド)服用による聴力回復の喜びの中で、僕は「もしかして、薬物依存というのはこういうところから始まるのだろうか」と自問自答していました。
眠れなくても疲れない。気分がいい。疲労感がまったくない。不安感も消える。この感覚が「薬のおかげ(せい)」だとわかっていても、どこかで心地よさを感じていた自分がいた・・。
処方されたステロイドと依存性薬物は、もちろん全く別物です。しかし「脳が人工的に作られた高揚感を“普通”だと覚えてしまう」という意味では、依存のメカニズムの入口はこういう感覚なのかもしれないことをこの身をもって体験しました。
言うまでもなく、昨今のアメリカはどの州もオピオイド危機(Opioid Crisis)を経験しています。鎮痛剤として処方されたオピオイド系薬物が、いつの間にか手放せなくなった人が何百万人もいます。最初は正当な処方だった。痛みが消えた。気分が楽になった。それが取り返しのつかない依存へと発展していく現状を語れば、枚挙にいとまがありません。
僕の場合オピオイド薬ではありませんでしたが、処方された薬は指示通りに。当たり前のことのようで、その「当たり前」を守ることの大切さを思い知った次第です。
突発性難聴は、なった人にしかわからない不安があります。50年間、音楽を生業としてきた自分には「このまま聞こえなくなるのではないか」という恐怖は、言葉では表せませんでした。しかし早期に動き、ENTの指示でプレドニゾロン服用による聴力回復が可能なのが、突発性難聴という病気でした。
ある日突然耳が聴こえなくなったら、「おかしいな」と思ったその日すぐに医療機関へ。
僕の突発性難聴の経験が、同じ不安を抱えているどなたかの助けに少しでもなればと願います。